2.菫■突然のお見合い話■
私と大輝さんの結婚話が流れた後も、西城グループとは良好な関係を築いてきた。
来月も西城グループが経営するリゾートホテルに、私が仕事で携わる新しいレストランがオープンする予定だった。
私の元婚約者である大輝さんは一見とても冷たそうな印象を与えるクールな人だったけれど、実はとても一途で男らしい人だった。
けれど何度か食事を重ねてデートをしても、私は彼の本当の素顔を見る事は出来なかった。私に向ける笑顔はどう見ても作り物で、この人はいつだって自分を閉じているような人で
その心の扉を開いて、彼から愛される女性は私ではなかった。
人生で初めてする冒険が彼との恋だったなんて今となっちゃお笑いだ。そんな細やかな願いさえ叶えられない…何も持っていない自分はもっと馬鹿らしく、笑える。
それでも…彼とならばちっぽけな自分でも何かを見つけられる…そんな気がした。始めから全く相手にされちゃいなかったんだろうけれど。
「来月いよいよオープンですね。ちょうど行楽シーズンですし、きっと成功すると思います」
「そうだといいんですけど。私的にはお子様プレートがまだ納得いってないの。シェフとも話し合っているんだけど、もっと夢のある感じにしたいんですけどね…」
大輝さんの会社のリゾートホテルに新しくオープンするボヌールは都内にも既に出店しているお店だった。
女性に人気の出そうなイタリアンのお店で、店内の内装はまるでお伽話の中に出てくるような非日常がテーマであって、不思議の国のアリスのような可愛らしいイメージを構想して出店したお店だった。