「俺も菫が好きだよ。つーか思った以上に良い男だったから思わず嫉妬した。
今度あいつが菫の前に現れたら直ぐに俺に連絡して」
「潤からの嫉妬も案外新鮮だわ…。私の為にあんなに怒ってくれるなんて」
「新鮮って……。俺本気で心配してんだからな?」
「分かっているわ。それでも嬉しかった…。今度姿を見せたらただじゃおかねぇからなってドラマの台詞みたいでロマンチックよ」
「だーからーお前はほんっとどこか世間とずれているというか…浮世離れしてるっていうか…
まぁいいんだけどさ……」
呆れかえっている潤を前に、私はひとつの決心をしたの。
その日も一緒に帰って夕飯を済ませ、互いにシャワーを浴びて同じベッドの中に入る。
’じゃあおやすみ。’頭を撫でてそう言った潤の体にギュッと抱き着く。ん?とこちらの顔を覗きこみ穏やかな笑みを浮かべる。
…実は心臓が飛び出そうなくらい緊張していたけれど、潤の体をこちらから引き寄せてキスをする。
自分からキスをするのは初めてだった。ゆっくりと目を開くと、潤は驚いたようにその大きな目を見開いて、耳まで真っ赤にさせる。そして私の体を少しだけ引き離した。
「ちょ…菫…。ベッドでそれはやばい。いちおー俺も男だからさ…」
自分からこんな事を言い出すなんてどうかしていると思う――
でも恋をしたら誰でもどうかしてしまうのかもしれない。そういうものだったのかもしれない。
私はずっと本当の恋を知らない女だったから。