大倉さんは少しムッとした表情をしていたけど、ふぅっと小さくため息を吐いた。そしてその場で両手を上げた。

「これはこれは可愛い顔をして恐ろしい王子様だ。そんなにカッカッしないで欲しい。何も無理やり連れ去ろうとした訳じゃあないんだから。
ん?もしかして君か?菫さんの周りをうろちょろしている男って言うのは。
篠崎さんが言っていた。娘は騙されているんだって」

あのクソ親父。この男に何を吹き込んだ。

大倉さんの挑発に、潤は今にもブちぎれそうだった。

「ちょっと止めてください!お父さんに何を吹き込まれたかは知らないけど潤は私を騙そうとなんかしてないわよッ!
もう帰って下さい!二度と私の前に顔を見せないで!
私はあなたみたいな男は大嫌いなの!」

無理やり潤の手を引っ張って車に乗り込もうとしたら、まだ大倉さんは何かを言いたそうにこちらへ叫んでくる。

「けれどお父さんに認められているのは俺だ!また会いにきますよ!」

なんつーしつこい捨て台詞だ。

その言葉を無視して潤とふたり車に乗り込む。

車を走らせて数分経っても潤は不機嫌なままだった。きっと怒らせてしまったに違いない。

あの男は野蛮で失礼だ。そんな男の本性も見抜かないで、娘と結婚させたいなどという父の事はもっと信頼出来ない。


少し車を走らせて適当な場所で潤が車を停める。ずっと無言のままだったからてっきり怒っているのかと思ったけれど……。