それでも強引に大倉さんは私の腕を掴もうとした。それを思いっきり振りほどいてしまった。
しまった…と思った。えらく不機嫌そうな顔をこちらへ向ける。視線が鋭い人だから、ちょっとだけ怖い。
ここはオフィス街。まだまだ仕事帰りで通りかかる人は沢山いる。無理やり何かをされる事はあるまい。それなのに潤以外の男は怖い。
「そんなあからさまに拒否されるとショックだなー…」
「大倉さん…私はもうあなたと会わないと伝えたはずです…」
「納得はしてないんだけどなー」
わざとらしく首を傾げて頭を掻く。私じゃなくっても良い人は沢山いるはずだわ。だって大倉さんはモテるだろうし…
確かに篠崎グループの娘という私の肩書は魅力的かもしれないけど。まさに今縁が切られそうな娘よ?
「私には現在お付き合いしてる方がいますッ!」
「へぇ」
ハッキリとそう告げたのに気のない返事をする。ますます掴めない男だわ。
「それに私は…もしかしたら父から縁を切られるような娘かもしれない。
そうなったら私には篠崎リゾートの娘という肩書もなくなります。…そんな娘大倉さんにとっては全く価値のない女だと思いますが?」
「それはまた面白い展開になってるねぇ。ほんっと菫さんって面白い子だよ。最初会ったばかりの時はただの世間知らずの娘さんかとばかり思ったけど。
それにこの間も言ったけれど、俺は出会った頃の菫さんじゃなくって今の菫さんがいいなって思うんだけど。それはもう篠崎リゾートとか関係ない」