9.菫■初めての体験■
もう勘当されてもいい。その位の覚悟はあった。
大真面目な私がそんな事を思ってしまうなど、自分で自分に1番びっくりなのだが
潤はそれは良くないと言う。筋だけはきちんと通したいと言っていた。けれどあの頭の固い父親に潤が傷つけられるのだけは避けたいところ。
誰だって自分の好きな人を悪く言われるのは嫌だわ。
「菫さん夏のキャンペーン大成功ですね。
夏休みってのもあって子連れの集客率が多いみたいです」
「そうね三井さんの案がとても良かったと思うわ」
本日、ノエールの店舗に視察に来た。
先日から始まった夏のキャンペーンは大成功なようで、平日だというのに客足は一向に途切れそうにない。
大輝さんの会社西城グループとの仕事も順調だった。行楽シーズンというのも相まってレジャーホテルに隣接されるボヌール2号店も中々に好調な滑り出し。それには大輝さんも満足そうに笑っていた。
「私はそんな…菫さんのお陰ですよ。菫さんって本当に女の子が好きそうなキラキラとした物ばかり作っちゃうんだから。私達がこんなお店きた~いって思うのを具現化するのが上手なんですよね」
「あら褒めすぎよ。それに私自身そんな女らしくないの。若い子が好きそうな物をリサーチして詰め込んでるだけなのよ」
なーんて。
私が作り出すお店は全部私の理想だったのかもしれない。
女の子らしくて、どこかキラキラしててふわふわしている物。色とりどりのカラフルな世界。
自分はそういう世界に縁のない人間だと思っていた。私の世界はどこまでもシンプルで無駄がなかった。
けれど潤と暮らし始めてからそんなシンプルな世界が途端に華やいだ。無駄な物ばかりだったかもしれないけれど、その目に映る世界は自分をワクワクさせてそれが私のずっと探していた物だと気づいたの。