でもそれは今にして思えば小さな嫉妬にすぎない。いつもニコニコとしているのだって、周りの空気を悪くしないように気を遣って生きるのだって疲れるはずだ。その証拠に私にはそんな生き方は出来ないだろう。
だからこそ父の言葉は許せなかった。
「そんな風に言わないで!潤がちゃんと仕事をしている事は私が理解しているわ…。
だから誰に何と言われようと…あなたは自分を卑下するような言葉を使うのは止めて…」
その言葉にゆっくりと潤は微笑む。
そして少しだけ照れくさそうに頬を指で擦る。
「へへ……何か菫にそう言われると嬉しいや。誰に何と言われてもお前が分かってくれるならばそれでいいよ」
「潤……」
目の前の潤の満面の微笑み。笑窪がふたつ並ぶ。 どんな事があったって、その笑顔が目の前にいつでもあったから、安心出来たんだ。
私は潤と幼馴染じゃなかったら、もっと暗くて嫌な女になっていたと思う。
「それより今度約束してたペットショップに連れて行って、私猫が欲しいのよ」
「あぁそうだな…。菫が気に入る猫がいるといいけど」
これ以上潤に心配をかけたくない。その一心で話を逸らしたけれど、思う事言えば父の事ばかりだった。
あんなに子憎たらしいと思ったばかりなのに。娘は娘だ。そして25年間大切に育てられた事など誰に言われなくても自分が1番理解している。
でも私も父の血を引く頭が固くて融通の利かない娘だったから、どんな言葉を並べたのならば父を説得出来るかは分からなかった。
例え猫を飼って潤と楽しく暮らそうと思えど、父に認めて貰えぬのならば現状の打破は出来ない。でももう考えたくもなかった。口を開けば潤の悪い所ばかりしか言わない彼の話は、もう聞きたくなかった。