ともあれ、人より少しばかりお金のある家に生まれた俺な訳だけど、両親は出来るだけ普通の子として俺を育てたかったらしい。

だからこそ学区内の公立の学校に進ませてもらい、自分の金は自分で稼げ、との方針で高校時代も皆のように普通にアルバイトもした。

そしてそうやって育ててくれた両親に、今はとても感謝している。自分が特別な人間であるように育てられたら、今よりずっと嫌な人間になっていたような気もするから。



母が出してくれたのは俺の大好物のかーちゃん特製肉じゃがだった。

最近気まぐれで帰って来る息子の為に、あらかじめ用意していたに違いない。

だってそれは俺の好きなカレー味の肉じゃがだった。

「やっぱりかーちゃんの飯が1番うめぇ!」と言ったら、母は嬉しそうな顔をして「だろう?!」と大きな声を上げた。



東京の外れにある少しばかり大きな白い家は、俺が産まれる少し前に建てられた家で、隣り合うように菫の家が建っている。

だから俺たちは生まれながらの幼馴染って訳だ。そして現在物置と化している俺の部屋にある南側の出窓は、菫の部屋の窓と向き合う形に造られている。

小さい頃は窓越しでよく夜更けまで話していたもんだ。

部屋には母の私物が積み上げられていて、俺の私物はまばらでどこかへしまわれたに違いない。
けれどベッドと茶色のピアノはあの頃のまま残されていた。

幼き頃からフルートを習っていた菫の影響で、ピアノを習い始めた。それよりもっと小さな頃は菫の母のフルート演奏の下でふたりでよく遊んでいたのを思い出す。