「潤、これから飲みに行かない?」
後片付けを手伝っていると、スタッフのひとりから声を掛けられる。
「ごめん、これから一旦会社に戻ってそれから実家に帰らなきゃいけないんだ」
「実家に?珍しいね」
「ちょっとかーちゃんが入院する事になってさ。つっても別に悪い病気とかって訳ではないんだけど…
検査入院?的な」
「そうなの?本当に潤は親孝行息子だよ。仕事も真面目だし若いのに感心するよ」
その言葉に笑顔を作り、撮影スタッフに挨拶をして現場を出る。
現場を出るとすっかり夜は更けていた。
これから会社に一旦戻って、直ぐに実家に帰ろう。最近の母は少しだけナーバスだ。あんなに元気で入院のひとつもした事がない人だから、検査入院と言っても不安なのだろう。
舞は今日本にいない。だから最近は出来るだけ実家に顔を出す事にしている。
会社に戻ると明かりは消えていて、既に社員は皆退社していた。
ディスクに腰をおろし、溜まっていた仕事を消化していく。タフな方だとは思う。けれど時たますごく疲れて、全部投げ出したくなる日だって普通にある。
椅子をくるりと回し、壁に立てかけられている時計を見ると、既に21時を回っていた。
’やば……’車のキーを手に取って、慌てて会社を飛び出した。
今日帰る場所は都内から少し外れた実家だ。
首都高は少し渋滞していたが、思っていたよりもスムーズに帰る事が出来た。 こういう日は決まってツいている。