「当たり前だッ……」
「私…結婚するなら潤がいい…。いや、違うわ。潤と結婚したいのよ」
素直な願いを口に出したのは、初めてだったかもしれない。
ちょうど映画が終わり、重なるようにホールニューワールドの音楽が響く。
私達は何回この曲を聴いてきた事だろう。そしてこの曲を聴くたびに、いつも願っていた事がある。
’うん。菫絶対に潤と結婚する’
ずっとずっと特別だったのに、特別過ぎて口に出す事さえ出来なかった。どれだけ遠回りをしてしまったんだろう、この25年間。いつも心の片隅で潤の存在があったというのに、それを無視して。
抱きしめられた潤の胸越し、少しだけ離されて頬を片手で押さえて、彼は小さなキスを私へ贈った。
私にとってこれはファーストキスだった。
私はお父さんの玩具ではない。会社の為の駒でもない。私は私の人生を生きる自由がある。それを今まで黙り込んで従う振りをして、心の中では不満ばかりだった。
口答えする事はなかったけれど、どこかへ消えて行った気持ちは沢山あった。私は感情のある人間だから、もっと自由で良い。
言いたい事を言ってみても、我儘になってみても良い。…それでもしもお父さんが怒ったり、私と縁を切りたいと言い出したら、それはその時に考えれば良い。
私の世界――私の願いはもう人に頼らない。自分の願いは自分で叶えて行くのだから――