私はきっと小さい時から潤が好きだった。人生の中で傷つくポイントがあったのだとしたら、それはいつも潤が関わってきた。自分では意識した事がなかったけれど、潤は私の全てだった。
中学が別れてしまった時。あの時何としてでも潤と同じ中学に進みたかった。あの日初めて父へ不信感がわいたのかもしれない。そして潤がピアノを辞めてしまった時。どうして私に黙ってピアノを辞めたりするの?と酷く傷ついたのを覚えている。
あのまま潤がピアノを続けて音大にでも進むと決めたのならば、この次は私は父に反抗してでも潤と同じ音大に進んだかもしれない。
そうやって人生のターニングポイントになる瞬間にはいつだって潤が関わっていた。
ただただ単純に潤と一緒にいて、同じ時間を過ごしたかった。それは小さな時から変わらなかった私のたったひとつの願いだった。
けれど、私を置いてどんどんと先に行ってしまったのは潤の方じゃない。…でもそう考えると私はそんな潤を必死になって追いかける事もしなかった。
潤が段々と大人になっていって、自分の知らない世界に行って知らない子たちに出会って、そして恋をしていく姿を見守るしか出来なかった。昔は一緒にいたとして、いずれ大人になるにつれて離れていく。幼馴染はそういうものだと思っていた。
けれど最近ずっと一緒にいるようになって、潤は私の人生の全てであって、私は潤が好きなんだと気づかされた。
「潤……」
部屋のドアからそっと顔を出してみると、潤は頭を抱えダイニングテーブルに座ったまんまだった。
こちらに気づくとハッと顔を上げて、こちらへ歩いてくる。 私を見下ろして、優しい眼差しを向ける。