隣にいる母を慰めたつもりだったが、彼女は恨めしそうにこちらを睨みつけ、大袈裟に胸をおさえる振りをした。

「いた…いたた…。もしかしたらこれはきちんと調べたら悪性のもんかもしれないわよッ。あぁ私の人生ももう終わるのね。そうね。昔からいうもの、美人薄命だって…。
それに昔から病弱だったわ」

どの口が言うか。昔から風邪のひとつもひきやしなかった癖して。

それに美人薄命だ?よく自分で言ったもんだ。どちらかといえば菫のかーちゃんの方がずっと病弱だと記憶しているが…。

まぁ風邪ひとつひかなかった人間がいきなり入院と言われたら、これ程気弱になるものだろう。

「そうだなー、かーさんは美人だからなー」

「でしょッ?!あんたは分かってくれるわよね?!」

ルームミラー越し後部座席を見つめる父には呆れる。

かーさんは美人だからな?!よく言えたものだ。…まぁ若い頃はそれなりに美しい人だったが…今じゃー口うるさいただのおばちゃんじゃないか。

「で、ばーちゃんはいつ帰ってくんの?!」

「知らないよ。文江さんは気まぐれな人なんだから。本当に帰って来るかすら分かんないもんだねッ!
それにあんたッ。文江さんが帰ってきたら口が裂けてもばーちゃんなんて呼ぶんじゃないわよッ?!
あの人の機嫌を損ねると大変なんだからッ……」

「わぁーってるつーの!」

ばーちゃんはかーちゃん以上にパワフルな人なのだ。

と、いうかばーちゃんと渡り合えるのなんてかーちゃんくらいなもんだから、やっぱり父の相手には丁度良かったのだ。

かーちゃんは自分の少しでぱっているお腹をパンっと叩いて「お腹が減ったよ」と嘆いた。今日は検査が終わるまで絶食なんだそうだ。つーか本当に落ち込んでいるのならば食欲さえ沸かないだろう。