パシャパシャ―。
カメラのシャッター音が切られる。
帽子を手に持ち、秋の新作の洋服の撮影。
カメラの前で、得意の笑顔を作る。 全くファッション業界に季節感はない。
たった今春が来たばかりだと言うのに、既に秋服の撮影なんてしちゃっているんだから。でもカメラの前で笑顔を作ったり決め顔を作ったり、嫌いじゃない。
元々目立つ事は大好きだし、お洒落も好きだし、人にそんな自分を見て貰うのも嫌いではない。
モデルが天職だとは思った事はないが、こういった仕事をしている時の自分だって嫌いではないんだ。
「潤いいねいいね、その顔良いね」
「うーん、そこ。ちょっと視線を斜めにずらして。いいねぇーすごくかっこいいよ」
「潤最高ッ!次は笑顔頂戴。う~ん、いいねいいね」
佐久間 潤 25歳。今年26歳になる。
人が俺の人生を見れば、順風満帆の恵まれた人間だと思うだろう。
いや、実際恵まれた環境で生まれ育ってきたのだ。俺の祖母にあたる女性は佐久間文江は世界中に知られる有名なFUMIE SAKUMAのデザイナーだ。
祖父はその会社の代表取締役をしている。
父はS.A.Kというファッションブランドを立ち上げて、現在若い世代を中心に人気沸騰中である。母は、元々S.A.Kの事務員をしていた人だった。そして結婚してもなおいち従業員として働き続け、俺と妹の舞を育ててくれた。
セレブ中のセレブといった所だが、育った家庭はそこらへんの普通の一般家庭と何ら変わりはない。