「平気よ。私そんなに弱くないわ。きちんと自分で意思表示をしなくては、誰にも気持ちは伝わらないわ」

ひと月前までうじうじしていた女とは思えないな。どこか強くなった気がした。父親に決められた相手と結婚しなくてはいけない。ずっとそう感じていた筈なのに、菫の中で何かが変わって行くのを感じていた。

君の気持ちの変化、少しでも俺が影響していたとしたならそれ程嬉しい事は無い。俺は菫には自由に生きて欲しい。考え方を変えて欲しい。

父親が存在していて自分がいるじゃなくて、自分は父親とは違った人間で、別々の道を進んでいいんだと気づいて欲しかった。


「何かあったら連絡しろよ」

「はいはい。心配性ねぇ…。平気よ。無理やり家に連れ込まれたりしないから。
それよりお母さんの事は心配だから様子は見て来てね」

「分かってるっつの。心配性なのはどっちだよ」

週末になって心配ながらも菫を見送る。その大倉つー男が直ぐにでも身を引いてくれると良いのだが。

駅まで菫を送り、それから直ぐに実家に戻り車を走らせる。驚く事に菫は俺の作った洋服で大倉に会いに行った。俺と一緒だと恥ずかしくないけれど、ひとりの時にこんな派手な服を着るのは恥ずかしいと言っていたのに。

すっかり慣れてしまったようで、その服を着て自分で化粧をして髪も上げていた。俺がいなくても自由な服を着て自由にメイクをして歩き出せるようになった。

それって大きな進歩ではないだろうか。やっぱり菫は変わったと思う。あんなに周りの目ばかり気にしていた子だったのに。

まるで巣立つ雛鳥を見ている気分で、ほんの少しだけ寂しくなった。

…いやきっといつかひとりで飛びだって行ってしまうのだろう。俺の力なんていらなくなって、いつか自分の道をひとりで歩き出すだろう。それは寂しがることではない。