6.潤□母の想い□
菫は不器用だが器用な女でもあった。
頼んだモデルの仕事もそつなくこなした。最初はがちがちに緊張していたが、数分ですっかりと慣れたようで世界にのめり込んでいった。
昔からフルートの発表会でも本番は素晴らしい演奏をしていたような子だ。
それにしても…プロのメイクさんにメイクをしてもらい、洋服を選んでもらった彼女は冗談抜きでお姫様のようだった。映画に出てきてもおかしくはないような。
思わず見とれてしまった。けれどそんな菫が俺が王子様みたいだと言うもんだから、反対に恥ずかしくなってしまったのだ。
そんな彼女と暮らす毎日は、まるで幼い頃を取り戻すようで実に楽しかった。
毎日のように食事を作ってくれて、休日になれば色々な所へ出かけた。菫の為に始めた生活だったけれど、気が付けば俺の方が楽しんでいたなんて。
けれども菫は時々思い悩んだように携帯に見入ってため息をつく。
今日も食事をしながら、携帯を見つめる。
「そういえばお父さんと会ったわ。まぁ同じ会社に勤めているんだから会っても当然だけど…
お父さんは基本的に色々な場所に行って会社にあまりいない人だから」
「おじちゃん…なんて?」
「別に…。元気か?とかご飯は食べているのか?って心配ばかりしてたけど…。
実は家出をする前にお父さんと喧嘩みたいな事をしてしまったの。大人げない事を言ってしまったと思ったけれど…そのせいで家に帰ってこいとは強く言えないんでしょうね」
家にやって来てひと月が過ぎ始めた頃から冷静さを取り戻したのだと思う。本来は家出なんてするタイプじゃない。
最近思い悩んでいた理由はそれか…と思ったらどうやら違ったようだ。