「王子様?」
ゆっくりとこちらを向いた潤は、心なしか少し頬が赤くなっていた気がする。
「ええ、あんたはペテン師かもしれないけど、王子様でもあるわ。撮影してる時不覚にもかっこいいと思ってしまった。
あんたはやっぱり俗にいうイケメンという部類に入るのかもしれない…」
「今更かよッ。
つーか俺が王子様だったら菫はお姫様みたいに綺麗だった…」
「冗談は止めて頂戴よ。私がお姫様な訳ないでしょう?」
「本当だよ。現場の人も皆言ってたし、それに予想していた以上に綺麗で驚いたんだ。
つーか俺は何を言っているんだ。あーッもーッ。自分で言っていて恥ずかしいな……。俺は一体何を言っているんだ」
赤信号で止まったかと思えば、ハンドルに顔を埋めて何やら恥ずかしがっている。耳まで真っ赤にして。
何であんたが照れるのよ。言われたこっちの方が照れくさいっつーの。お姫様だなんて…綺麗だなんて…そういう言葉は余り簡単に使う物ではないのよ。
これが私だから良かったものの、あなたは昔から女の子を勘違いさせやすい性格なんだから、自分の発言には責任を持って頂戴。
潤が車の窓を開けると、その隙間から生暖かい風が通り抜けていく。
夏が来る。忘れられない夏がやって来る。二度目の冒険。それはドキドキするようなどこか刺激的で、でもどこか懐かしい。幼き頃にあなたと一緒にいた時間の中で感じたものに少しだけ似ていて――
私はすっかり自分の立場を忘れてしまっていた。