俺、佐久間 潤と篠崎 菫とはもう25年の付き合いになる。数えきれないくらい長い年月が過ぎてしまったと、ふと考える時がある。

菫はきっと、あんな小さな頃にした子供の口約束をすっかりと忘れているに違いない。

けれど俺はあの日した約束を1日たりとも忘れた事はない。女々しい男だとは思う。菫が俺を幼馴染以上に見ていない事なんてとっくの昔から分かっている。



一通りデスクワークを終わらせ、ノートパソコンを閉じおもむろに立ち上がる。

「じゃあ俺は撮影に行ってくるよ」

「お、さっすがモデルさん」

「止めてよ。自分の親の会社の広告に出ているだけだ」

「でもすげぇ人気じゃん。テレビとかの出演依頼とかも来てるんだろう?
朱莉の知り合いでも佐久間潤のファンって女がいるらしいよ」

「その子可愛い?今度紹介してよ」

「だからー…お前はさー…」

「アハハ、冗談。じゃあいってくるねん!!」


パソコンを鞄にしまい、事務所から出ると春の柔らかい風が鼻先を擽る。
もう、すっかり春だ――。

あれからいくつ春が巡ってきても、俺と菫の関係が変わる事は一切ない。



でもそれでもいいじゃない。

たとえ幼き頃した約束を俺しか覚えていなくとも、大人になっていくにつれて沢山の女の子と付き合って、色々な女の子を抱いてきたとしても

決して汚してはいけない、たったひとりの女の子。そんな聖域がこの世にひとつくらいあってもいいじゃないか。

菫にとって俺はただの幼馴染だとしても、俺にとって彼女はこの世で代わりのいないたったひとりの大切な’聖域’だ。