「モデル、やってみようかな…」
「え?!」
「私って昔からやってみる前から自分に向かない事は拒否する癖があるのよね。
特別にモデルがやりたい訳じゃないけど…潤の言う通り何でもやって見なきゃ分からないのかもしれない。
だってせっかく家出なんて私の人生では1番ありえなかった事をしてみたんだもの。もうこうなったら乗りかかった舟?絶対に自分に向いていない事だって何だってやってやろうって気持ち。
私も潤の見ている世界を見て見たくなった。そしたらもっと自由な音も出せる気がするし」
君のフルートが不自由だとは思った事がない。
寧ろ楽器を弾いている時の君はどんな時よりも自由だとさえ感じた。
それでも本人はまだ自由ではないと考えるのか。
ニヤニヤと笑っていると何を勘違いしたか頬を赤らめて、指を鍵盤から外してしまった。
「別にあんたの会社の為とかではないから、勘違いしないでよね!」
「それでも俺は嬉しいよ~、ありがとうね~」
「だから何であんたはそこまで素直なのよ。調子が狂うわ…」
フルートを再び手に持ち、ぷいっとそっぽを向く。いつも通りのぶっきらぼうな菫に戻っていた。
でも俺は何だかとても嬉しくて、勝手にピアノの上指が動き出した。
決して上手ではないと言われたピアノ。それでも何年も続けた理由は、隣でフルートを吹く君の姿がいつだってあったからでそれ以上の理由なんてなかった。
あの頃は一緒にいる事の理由なんて考えた事はなかった。いつだって自然に隣にいてくれたから。