「お前の基準は結局菫なんだよな」

飲んでいた珈琲を思わず吹き出しそうになった。

「何で菫が出てくるんだよ。」

「いや、だって……どう見てもお前…」

「菫とはただの幼馴染だし付き合った事も1回もない。
止めてくれよ」

「’幼馴染’ねぇ」

「それより俊哉んとこは上手くやってるのか?そろそろだろ?子供生まれるの。
朱莉の体の具合いはどう?」

その名を出すと、彼は少しだけ顔を綻ばせた。

先日、俊哉は高校時代から付き合っていた朱莉と結婚した。もうすぐ子供も産まれる。

高校時代から一途に付き合ってきた彼女と結婚するなんて、こいつらしいちゃーこいつらしい。
結婚は良いもんだぞ、と言う俊哉が少しだけ大人びて見えた。

’結婚’というワードで遥か昔の約束を思い出す。



’菫ちゃん大きくなったら僕と結婚してね’

’うん。菫絶対に潤と結婚する’



あれは5歳くらいの時にした約束だったろうか…。

遠い昔の思い出に馳せる事など、自分らしくもないが…あの約束は自分の中でいくら忘れようとしても忘れられないものだ。

上記でも述べたように、俺には幼馴染がいる。

俊哉とも小学校からの付き合いなので、ある意味幼馴染にあたる。けれどそれよりもずっと長い付き合いの幼馴染。

家がお隣さんで同い年。両親同士も仲が良くって、言ってしまえば産まれた時からの付き合いだ。