ようやく理解したか。

箸を置いて、さっきまで笑っていた顔が一変し無表情になる。

「それって…まさか私にモデルをやれって事?」

まさかのまさか。やっと気づいてくれて嬉しい限り。遠回しな言葉はどうやら伝わらないようだから、はっきりと言っておく。

「菫は勘違いしてるみたいだけど、この仕事は結構楽しいよッ?!
勿論会社に迷惑をかけるような事はない。撮影も菫の予定に合わせる事は出来るし、なんていってもプロ集団に写真を撮ってもらう機会っていうのも余りないだろう?
そう考えたら良い経験になると思うッ!」

てっきり菫は怒るかと思った。

そんなちゃらちゃらした仕事出来る訳ない、といつもの気の強い眼差しで。勝手な事ばかりを言い出す俺に説教のひとつでもしてくるもんだと思っていた。

だけど彼女は次に思いもしなかった事を言う。さっきまで無表情だと思っていたが、途端に困ったように視線を落とした。それはそれは自信がなさそうに。

「それは無理よ…。そんな経験はないのは勿論だけど…。
私みたいな女が潤の会社の洋服を着てもそれは宣伝にはならないわ…。こんな陰気な女がモデルなんか務めたら潤の会社のブランドの価値が下がる…。
それにモデルっていうのは選ばれた人間の特別な仕事でしょう。素人である私がこなせるとは到底思えないわ。潤は会社勤めしながらもモデルとしての才能も華もある人だから簡単にこなせてしまうのかもしれないけど、私には到底無理だわ」