潤が部屋の奥に行きピアノに手を伸ばすと、あの切なくも美しいメロディーが刻まれる。
私もフルートを手に取り、唇を充てる。
ピアノとフルートの音が重なり合って、美しいメロディーを刻んでいく。
私がフルートを始めて直ぐに潤もピアノを習い始めた。小さい頃から一緒に音を奏でてきた。けれどいつしか潤はピアノを辞めてしまって、中学に入ってからは別々で会う時間も減ってしまい、一緒に音を奏でる事はなくなってしまっていた。
そうやって少しずつ距離が産まれた。代わりに潤は服を作る事が大好きになって、徐々に別々の道を歩いていく事に寂しさを感じた。
けれどそれを口に出した事はない。だって新しい事を始めて、自分の世界を広げていく潤はいつだって楽しそうだったから。そこにはいつの間にか私の入り込む隙なんてなくなっていった。
幼馴染なんて切ないだけだ。この曲のように――。
’菫ちゃん大きくなったら僕と結婚してね’
潤はもう、あの言葉を覚えてはいないだろう。そんな約束をした事なんか遠に忘れてしまっただろう。
けれど、母のフルートを聴きながらしたゆびきりげんまん。空まで届いたあの約束を忘れられずにいる自分がどこかにいた。
彼は、私とは違う。
これからも自由な羽根を拡げ、どこまでも飛び立っていってしまう。
そして自分の望んだ人を見つけて、あの日の約束なんてすっかり忘れて、私の知らない誰かといずれ結婚するのだろう。