「ほんとありがとう。大切なものだったから。」
投げ捨てたい思いを堪え、できるだけ笑顔を作る。
「ほら。次はもっとキツく結んどけよ!」
弾けるような笑顔の少年から受け取った、古ぼけたリボンは前よりも重みを増しているように感じて…。
手にずっしりとした感覚をあたえる。
逃れられるはずだったのに。
もう、忘れるはずだったのに。
「じゃ、俺行くわ!」
手を振って走り出した後ろ姿。
「あ…」
今思えば、この時に私はその少年に恋をしたのかもしれない。
走る姿に惚れたというのが正しいのかもしれないけれど、目を…心を奪われた。
無駄のない綺麗な走りをもっと見ていたいと思った。
もう一度だけ、あの場に立ちたい。
そう強く思った。
これが私と春輝との初めての出会い。