そのあと雅暉さんが上がるまでの間、私は雅暉さんと二人での会話を交わすことはなかった。


 いつもは少しでも長く話していたいと思うけど、今日も思ったけど、どう話しかけたら良いのか、何を話せば良いのかもわからなかった。


「お先に~!」


「お疲れ様っす」


「お疲れ様です・・・!」


「苗ちゃん・・・!」


 帰り際、そう雅暉さんに呼び止められたけど、呼びかけに答えると『あと頼むね』とだけ告げて帰って行ってしまった。


 期待してしまった自分が恥ずかしくなった。


 何か言われるのだと思った。


 そらそうだ。


 私は今、ただの如月の従業員の一人に過ぎない。


 仕事以外の話をする必要はないのだ。


 もう好きでいてはいけないと言われたのだから、それは当然なのかもしれない。