「…急に何を言うかと思ったら、そんなの、今までずっと聞いてきたわよ。でも、私はもう幼馴染ではいられないから、蒼の前から消えたの。」

引っ越しの日。あの日は、蒼の25歳の誕生日だったから。

幼馴染を辞めると言っても、プレゼントを渡さずに離れるのも違う気がして。

選んだのは桜柄のハンカチ。

「あの日、蒼に投げたプレゼント。中身は見てくれた?」
「…あぁ、桜柄のハンカチが入ってた。葵の好きな、桜の。」
「えぇ。好きだった。蒼が初めて私にくれたあの日から、桜が大好きだったの。だけどもう桜は見るのは辛いから、さよならの意味を込めて、ハンカチを渡したの。」

ハンカチをプレゼントすることは、別れを意味するとも言われる。

だからあえて、大好きだった桜のデザインされたハンカチにしたんだ。
蒼と、桜と、離れるために―――

「蒼はまだ、ずっとそばにいた私がいない環境に慣れてないだけだよ。そのうち、すぐに慣れるから。」
「それは違う。」

弱々しい不安を抱えた瞳で、蒼は私を見た。

「俺は、幼馴染でいられなくなるのが怖かったんだよ。幼馴染でいれば葵のそばにいられる。でも、葵が他の奴と一緒にいるのが許せない、小さい人間だった。」
「なに、言って…」

「葵のことは、もうずっと、好きだ。だけど葵に拒否されて葵のそばにいられなくなるって考えたら、幼馴染の距離を保つしかなかった。それなのに、葵が突然いなくなって、離れて…幼馴染なんかどうでもいい、ただ葵に会いたい。そう思ったら、有休を取って大阪に来ていた。」

突然知らされた、蒼の想い。
私も蒼も、同じことを考えていた。

お互いに離れることが怖くて、“幼馴染”という関係でごまかして傷つかない方を選んでいた。
それが、お互いを傷つけていたのに―――