「結構よ」

「何だよ、素っ気ないな」

「こんにちは、お嬢さん。おいしいとれたての野菜だよ!買っていかないかい?」

「必要ないので結構です」

「…。そうなのか、お嬢さん野菜嫌いなのか?おいしいんだぞ?ほら、これやるよ」

「無償で頂くわけにはいかないので。」

「そういうのは受けとるんだよ」
ジャックが耳打ちする。

アリーダはジャックに向かって顔をしかめた。それでも、
「…それなら。ありがとうございます…。」

「楽しんでいきな!お嬢さん!」

八百屋のおじさんがアリーダに笑いかける。

「な?この町の人達は気前がいいんだ。どうだ?楽しいだろ」

「別に」

と言いながらもアリーダは先程もらった野菜を食べる。

「……おいしい………。」

「な!!そうだろ!?喜んでくれてよかったよ!」

ジャックは嬉しそうだ。

「あなた、この町にいるときは元気なのね。」

「そりゃあな!この町はいつも俺に元気をくれるんだ。わかるだろ?」

「さあ。」




「ついた。ここだ。なんでこんなに混んでるんだ?あ、そうか!今日はアイリーンの誕生日だ。」

「…。」

「みんなアイリーン王女の帰りを待ってるんだ。ほら、あの壁画。」

ジャックが指差した先には、オルテーンの国王夫妻と、2人に連れられているアイリーンの絵が描かれていた。

(見覚えがある…。どこかで…これを。)

「アリーダ?どうかした?本、見るだろ?」

「…あ、ええ。」

壁画の前の台に本が置いてある。
それをアリーダは手に取った。

「この紋章は?」

「ああ、それはこの国の紋章だよ」

(この紋章も見覚えが…。)

「プリンセス、アイリーン。8歳の時に失踪。髪はブルネット、赤いドレスを着ていた。リチャード事件によって失踪したと考えられる…。リチャード事件って…」

「ああ。兄さんの件だ。」

段差に腰かけていたジャックはうつむいてそう言いはなった。

「ここでは話せない。リチャード事件については俺の方がよく知ってる。ついてきてくれ。」

アリーダは黙ってついていった。