『惑わされるな梓。これは幻覚だ』
ハッと顔を上げてみれば、傍には父親のような温かさを持った人。
倒れそうな私の背中を支えて大きな口を開けて笑ってくれる。
『梓は梓のままでいいんだ。素直で優しいところに俺達はいつも救われていたんだよ』
そう言ってくれるのは近藤さんだけ。
初めて会ったとき、一番最初に優しさと温もりを与えてくれた人。
ぎゅっと抱き付いた私を大きな愛情で包んでくれる。
『お、こんなに甘えてくれるなんて初めてじゃないか』
本当はずっとこうしてみたかったんだよ。
ぎゅって抱き付いてみたかった、もっとたくさんおんぶをされてみたかった。
近藤さん、近藤さん。
『ははは、だが梓。少し間違えてるぞ?』
え……?
間違えてる……?
『俺は大久保 大和だ。近藤さんは……誰なんだ?』
男は笑う。
『おおくぼやまと』と、何度も何度も繰り返して。
そんなものが不気味で奇妙でおかしくなりそうだった。
そうして見ていると、近藤 勇の顔すら思い出せなくなってしまって。
飲み込まれる。
今にもその暗闇が目の前に迫ってきて───…