びしょ濡れの男は土方さんが手を加えるまでもなく、既にうつ伏せて縁側に身を預けていた。
あ、この人は───…
「お、お爺さん…?」
「おお…!梓さんではないですか…!」
その人は先日、手紙を送ってきた老人だった。
どこかで見覚えがあるなぁと思っていたら当たりらしい。
「間者にしちゃあ下手過ぎだ。さっさと帰れ」
「実は道に迷ってしまいまして…。そしたら豪雨に吹かれてしまい…、梓さんの住む家はここらだと思い出して向かったんです」
「んなこたぁ知らねえよ。宿なら少し先にある」
それでもお爺さんは頭から足までびしょ濡れ。
さすがに老人をこの雨のなか帰すわけにはいかないから…。
「あの…上がってください」
「…お前は何を言ってやがる」
「だって雨凄いし、風邪引いちゃうから」
とりあえずお風呂だけでも入ってもらわなくちゃ。
「何から何まですみませんなぁ…」
「いえ。ちょうどたくさん作りすぎちゃったので…」
湯から上がれば夕飯を出した。
土方さんはずっと不貞腐れているが、さすがに放ってはおけなかった。
そしてようやく落ち着いたお爺さんは私を見つめ、目を細める。
「やはりあなたは素敵な女性だ。触ってもいいですかな…?」
「斬るぞ。どさくさに紛れて調子乗ってんじゃねえよクソジジイ」