あのとき、あんたに全部奪われてしまって言えなかった言葉がある。

もしどこかで聞いているならば。

聞いていなくてもいい、ただ俺が言いたいだけだ。


独り言だ、俺の。



「近藤さん、俺の方こそありがとう。…あんたに出会えて良かった」



あんたにはやっぱり敵わない。

こんなときでさえも『ありがとう』なんざ言ってくれやがる。

確実に梓は近藤さんに似たぞ。


なんて思って、微かに笑みがこぼれた。




「たとえ身は


蝦夷の島辺に朽ちぬとも


魂は東の君やまもらん」




もしかしたら今までで一番いい句かもしれない。

俺の辞世の句があったとしたならば、こんなものだろう。

だが、朽ちなかったんだ俺は。


未来から来たこの女に助けられた。


そしてその女と暮らしてる。
この先も、ずっと共に暮らしていく。



「それと総司、朔太郎。てめえらの分までこいつは俺が幸せにする。…安心してくれ」



サァァァァァ───…。


秋の始まりの涼しい風が俺達を撫でた。

また伸びた梓の髪を揺らし、そんなものが愛しくなって頬を寄せる。