土方side




2人きりの祝言を挙げ、縁側で並んで思い出話に耽ていれば梓は肩にもたれ掛かるように寝てしまった。


月の綺麗な夜。

嬉し涙を流した女の頬は、しっとり潤いを含んでいた。



「近藤さん、俺ぁ幸せだよ」



そう呟いた俺の背中を。


───トンッ。


微かに押す感覚が触れたような気がした。



『───ありがとう、トシ。』



夜風に乗せられてそんな声まで聞こえたような気がしやがるから。

思わず振り返ってみる。
けれどそこにはやっぱり誰も居ない。



「…俺の台詞なんだよ」



それでも、その『ありがとう』は。


あのとき最後に城で聞いた記憶の中にあるものとはまた少し違うような気がして。

今、この場所で改めて言われた言葉のような気がして。


まるで娘の幸せを喜ぶ父親の言葉に聞こえた。


それは俺の自己満足でしか無いとも思うが、それでもそんな自己満足なら俺にとっても嬉しいものだ。