幸せって、これだけで十分だ。


便利なものなんか無くたっていい。

テレビだってインターネットだって、携帯電話だって要らない。


そんなものが無くても人は幸せを手に出来る。

伝えたい気持ちを届けることが出来る。



「…返事は“はい”か“うん”の二択だぞ」


「ふふっ、───…はい…」



大切な人が傍にいる。

これに勝るものなんか何ひとつだって無いんだって。



「お前から飲め」


「こういうのは歳三さんからなんじゃ…」


「ここはお前からだ。…これも嫁の特権だな」



盃を手にして、ゆっくりと飲んだ。

やっぱりお酒の味にはまだ慣れてくれないけど…。


そして今度は、彼がその盃を手にする。



「───…」



すごく綺麗だった。

やっぱり土方さんは綺麗だ。


空になった盃。

コトンと床に置いて、じっと私を見つめてくる。



「これで正式にお前は“土方 梓”だ」


「うん…っ」



ぎゅっと飛び付くように抱きつけば、そんなものを分かっていたかのように受け止めてくれる。


人の暖かさを知ったこの時代。
家族のぬくもりを知ったこの時代。

女としての幸せも知った、この時代。


私のぜんぶはいつだって土方さんの隣だった。