着物をぎゅっと握りしめて彼へと目を合わせた。
少し唇が震えてしまうけど、私達を阻むものは今はもう何もない。
「しゅ、祝言は挙げたのかって…そう聞かれてねっ」
「……」
「でも言葉で十分だから……したいとかそういうのじゃなくて…ただちょっと気になるだけで、だから…」
ひぐらしの鳴き声が外から響いてくる。
チチチチチ───…と、静かな部屋だからこそより一層耳に届いた。
「俺ぁそういうモンはあんま知識がねえ。…だが、お前も女だもんな」
そうだよな、と呟いた土方さんはおもむろに立ち上がった。
勝手場で何かをゴソゴソしている。
思わず見つめてみれば、まだ1度も使ったことの無い赤い色をした盃に酒を注いでいる背中。
「土方さんお酒呑むの…?下戸なのに…」
「お前にだけは言われたかねえよ」
「それなら私が準備するよ…!」
「座ってろ。今日ばかりは俺がやらねえと駄目なんだ」
そうして盃を1つ手にして、再び私の隣に戻ってきた土方さん。
コトリ、と床に静かに置いた。