お嬢様とピアニスト

白川高校には、2つのコースがある。

1つは、ごく普通に暮らしている人、いわゆる一般人が通う「一般コース」

先程掲示板に集まっていた人達がそのコースだ。

もう1つは政治家の子供など、家が財力をもつ生徒が通う「特別コース」

私が通っているのは特別コース。

と言っても、望んで通っている訳では無いのだけど。

私のお父様、桜木悟(さくらぎさとる) は、(よわい)26にして自分の会社を立ち上げ、瞬く間に大企業へと発展させた実力者。

私は将来この会社を継がなくてはならない。

これはもう、私が生まれた時からの決定事項。

会社内での相続争いを無くす為らしい。

だから、今のうちから経営について学んでおけ、とお父様に半強制的にこの学校に入学させられた。
特別コースは私と同じような境遇の生徒ばかりで形成されるため、人数が少なく、1クラスしかない。

だから一般コースのような、クラス替えもない。

仲良い友達と離れないのはいいけど、クラス替えが無いのはちょっと残念。

「ガラッ。」

「お、花奈!おはよう!」

「海里!おはよ〜。」

教室に入ると、私の親友の若草海里(わかくさかいり)が近寄ってきた。

海里はショートカットで、名前も性格も男っぽいけれど、とても元気でフレンドリーだからか男女共に人気があり、友達が多い。

「花奈、どうかしたの?なんか様子変だよ?」

「そうなんだよ〜、聞いてくれる?」
「今日の朝ね、次の日曜日、私の婚約者とそのご両親に会う予定になっているからってお父様から言われたのよ。」

「は?どういうこと?悪いけど話についていけない。そもそも花奈、婚約者なんていたっけ?」

「いるわけないじゃん!今回初めて会うの。だいたい私の婚約者を決めたって話自体今日初めて聞かされたんだよ!?」

つい声を荒らげてしまい、クラスメイトの視線を感じる。

私は気まずくなって声を潜めた。

「どうしよう。まだ結婚なんてしたくないよ。」

「それはまた無茶苦茶な話だねー。」

「でしょ?いつかこういう日が来ることは覚悟していたけど…。」

「まさかこんなにいきなりだとはね。それに次の日曜日って、今日が月曜日だから1週間しかないじゃん!」

「ほんとにね。せめてお父様も婚約者が決まったことぐらいもっと早く教えてくれれば良かったのに。」

朝のことを思い出してしまい、私が顔を顰めると、海里は苦笑して言った。

「でもさ〜、花奈前から知ってたら何がなんでも婚約破棄しようとするでしょ?」

「そりゃあそうよ。」

「お父さんもそれが分かってたから先に相手の方を確実に固めておいたんじゃない?」

「だいたいお母様とお父様は恋愛結婚なのに私は親に決められるなんて理不尽よ。」

「まあ、確かに。」

「私はきちんと恋をして、付き合って相手のことを沢山知って、喧嘩もして、デートをして、プロポーズしてもらって幸せに結婚するって決めてるもの!」

これは子供の頃からの夢。

絶対に譲れない。

親に婚約者紹介されてそのまま結婚するだなんてそんな人生、面白くないじゃない?

「でも、その相手いないでしょ?」

「う…今から見つけるの!」

「あと1週間で?ガンバレー。」

「ちょっと、信じてないでしょ!絶対に見つけてお父様を説得して見せるんだから!」
✱ ✱ 放課後 ✱ ✱

「どう?なんか進展した?」

「いいや、全く。それどころか男子と話さえしてないわよ。」

進展なし。

そりゃあそうよね。

だって私、恋なんてしたこともない。

告白されたこともない。

もちろん付き合ったこともない。

つまり、恋愛経験全くのゼロ。

それどころか男子ともあまり話さないから、仲の良い男友達もいない。