いつからだろうか、僕が記憶を持ち物事を覚え始めた頃から本が好きだったらしい。もちろん僕はそんな事覚えていないし、だけど確かに家には様々な本が並んでいた。ただ寝る前に本を読んでくれていたのは覚えている。そして中学生になった時にとても綺麗な表紙だな、と思い手に取り初めて自分で買った本が“言の葉の庭”という本だった。その本は僕に様々な事を教えてくれた、一番はやはり雨が好きになった事かもしれない。
『鳴る神の少し響みてさし曇り雨も降らぬか君を留めむ』という和歌がある。この和歌の意味は、「雷が少し響いて、空が曇り、雨も降らないだろうか。あなたをここに留めたいから。」という意味である。美しい詩だな、と中学生ながら思いその頃から本というより詩や歌の魅力にハマった。その一言で僕がどんなに救われたか励まされたか、本当に面白いし偉大だと思った。


 そして中学二年になる頃には自らも本を描き始めた。初めはそれはもう拙い文章で黒歴史を大量生産しては机の引き出しに入れて封印したりした。それでも高校生になる前に机を処分することになって整理して出てきた時は捨てようという気には全くならず、ついつい読んでなかなか作業が進まなかった。
 そして高校生になり夏前に僕にも彼女が出来た。その子はとてもかっこよかった、容姿ではなく性格の面で他の人より魅力的に感じいつしか好きになっていた。好きなことや部活にも勉強やバイトにもストイックに生き、僕には無いものをたくさん彼女は持っていた。


 そんな彼女と付き合って四ヶ月になる頃、家に彼女を呼んだ。その時何となくベッドの下に隠していたのがバレたのか僕がジュースとお菓子を持って部屋に戻ると僕が書いた黒歴史達を隣において読んでいた。
 その時のことは今でも鮮明に覚えていて、普段僕が声を荒げることが無いため、軽いパニックを起こして少し怒気混じりに急いでその本を取り返し、彼女を少し驚かしてしまったことがあった。彼女は僕に、「エロ本でも無いかな? って軽い気持ちで覗いちゃった」と申し訳そうに「ごめんね?」と言ってくれた。今思えば彼氏の家のエロ本を探すのもどうかと思うけれど仕方ないかな、と思ってしまった。とことん彼女に甘い事もバレていたからかもしれない。ただその次に彼女はでもね? と言って笑いながらこう言った。
「めっちゃいい本だと思うよ? あ、ねぇ! 私のこと書いてよ!」この時僕は初めて人のために書くということにとても魅力を感じ、とても驚いた。そして気づいたら返事していた。
「うん、いつか書くね。絶対に。」
 その時僕は一年記念日の日に渡そう! と思いそれまで彼女とデートした場所やこの日からのことはメモに残していった。