「もしさ、俺以外に……」
最後の日の夕方。
日没ギリギリの昼と夜のちょうど境目の時間。
デート帰りに2人で手を繋いで、君の家の近くを歩いていたとき。
そんななんてことない日の、なんてことない時間。
さっきまで元気に話していたのに、急に口数が少なくなったかと思えば、君はそう口火を切ったのだ。
私は君の顔を見上げ、その表情を窺う。
その顔は少し深刻で、その先にどんな言葉が続くのか、ちょっと不安になってしまう。
そんな君の重い心を少しでも軽くしようと、私は真剣に、でも少しだけ明るい表情をした。
これで少しは話しやすくなるだろうか。
君は言いにくいことを口にするとき、こんな風に時間がかかるのは良くあることだった。
言いにくい理由は様々だったけれど、誤解のないように必死に言葉を選ぼうとするところを、私は好きだと思っていた。
しばらく君はうつむいた後、やっと決心したようだ。
急に立ち止まって、しっかりと私の方へ向き直る。
あのね、君は甘えたように優しくそう始めると、私の目をしっかりと捉えた。