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息巻いて、迎えた当日、2月14日。
宮本さんと話が出来るかは定かでは無いけれど、一応、サクラさんに教わったレシピで作ったガトーショコラを鞄に忍ばせ、家を出た。
仕事が思ったよりも長引いて、ビルに戻ったのは22時を少しまわった位の頃。
ロッカールームに一度戻って、ピンクベージュの5分袖の膝丈ワンピースに袖を通す。
「やっぱり袖のシースルーの花の刺繍と肩のリボンが可愛いね!
髪、緩くアップしてあげよっか?」
サクラさんが髪をセットしてくれて、それから、会場へと向かった。
宮本さん…来てる、かな…。
少し緊張気味に入って行った会場。
ビールグラスを片手に鈴木さんや作田さんと談笑する宮本さんが目に入り、思わず足が止まる。
ネイビーに薄く茶の格子のスーツ。ジャケットの前を開けてベストにシンプルな濃グレーネクタイをインしてる。
前髪が少し長めに降りた、ふわりとした髪。
ど、どうしよう…久しぶりに見たせい…?
いつもの倍増しでカッコ良く見える……。
緊張が一気に走り、コクリと喉を思わず鳴らしてしまった。
宮本さんが振り返り、私に気が付く。
視線を外して、スマホで何やら打ち出した。
途端、私の鞄の中でスマホが揺れる。
『少ししたら、帰るよ。』
うそ…
わ、私…宮本さんと一緒に帰れるの?
スマホから顔を上げると、一瞬、口角をキュッとあげてから、そのまま、話しかけられた人へと視線を逸らす宮本さんに、どうしようもなく、気持ちがキュウッと音を立てた。
う、嬉しい……
私の抑えられないにやけ顔で察したらしいサクラさんが、ポンポンと軽く背中を叩いた。
「…良かったね。可愛くしてきた甲斐があった。」
フッと目を細めると「じゃあ、私はご挨拶があるから」と私から離れて行く。
ピンヒールで颯爽と歩くその姿に、一瞬にして視線が集まった。
やっぱり素敵だな…サクラさん。
その背中に見とれていたら
「こんばんは!」
斜め後ろから声をかけられた。
あ…受付嬢のお二人…
二人ともフワリと髪を巻き、膝上のスカートから覗く足はスラリとしている。
少し深めに開いた胸元も、綺麗に谷間が出来ていて、少しだけ色気を放つ。
凄く、派手で露出が高いと言うわけではないけれど、それがかえって可愛い感じがして雰囲気にも違和感が無くて…。
…頑張って可愛くしてきたつもりだった自分が何となくいたたまれない。
これがベースの差と言うやつか。
俯きがちに視線を外し、こんばんはと小さく挨拶をした。
「秋川さん、今日は可愛い格好してますね!」
「そ、そんなことは…。」
お話を早く切り上げたくて、愛想笑いで返すけど。
それが伝わらないのか、そのままニコニコ話を続ける二人。
「オーナーさんに感謝だよね!こんな風に盛大な出会いの場を一年に一回用意してくれてるんだから。」
「本当だよね~」
「出会い…」
「そうよ?秋川さんだってだから気合いを入れて来たんでしょ?その格好。」
クスリと少し鼻で笑うと、改めて二人とも私を見る。
「普段が普段だから、わかりやすいですね!」
ふ、普段が普段…
ははは…と自嘲気味に笑って返すしかない、こうなってくると。
「でも、宮本さんと別れたんだし、新しい出会いに期待するのは当然ですよね!」
え……?
「おかげで、今日、告白しやすくなったよね?藍那?」
“あいな”と呼ばれた方の髪の長い方のコが含み笑い。
「まあ…申し訳ないですけど、あまりお似合いという感じじゃなかったですもんね~。
別れて正解だって思います。秋川さんにはもっとお似合いの方、いらっしゃいますよ。うん。」
お似合い…じゃない。
ズキンと気持ちが痛みを感じた。
分かってる、それは。
告白したのだって、相手にはされないだろうけど、チャンスはチャンスだって後先何も考えない勢いでだったし。
未だにどうして…と言う想いはずっとある。
だけど、それでも。
一週間、密に過ごして、私はもっともっと宮本さんが好きになったから。
彼女として…側に居たいって、思うから…頑張らなきゃって……。
キュッと唇を噛みしめた。
「私…宮本さんと別れてはいません。」
受付嬢のお二人は一緒に笑顔がそのままフリーズする。
「で、でも…最近一緒に帰ったリ、出社してきたりしてませんよね…。前は毎日の様にそうだったのに。」
「それは…宮本さんも私も今少し忙しくて時間が合わないからです。
じ、事情が変わったし…」
まさかあの時は『一週間の期間限定だった』とも言えず、曖昧な言い訳。
それに二人は顔を見合わせてそれから、私の方に、パッと明るい笑顔を向けた。
「でも、告白は自由ですよね?」
「そうそう!それに、すれ違いしてるなんて、やっぱり秋川さんと宮本さんは合わないんですよ。」
「え…?あ、あの…」
「今日はせっかくの場なんだし、他の男性とも話したらどうかな。
えっと…あ、居た!谷口さーん!」
呼ばれて、一人の男性がこちらに身体を向ける。
その隣に居た人も。
「谷口さんと…境さん。お二人とも秋川さんがお気に入りなんですよ?」
「6階の丸戸商事にお勤めの方で、将来有望らしいです!」
「や…あ、あの…」
そんな紹介されても困る…のに…
躊躇している間に、男性お二人があっという間に近づいて来た。
「こんばんは。」
「お疲れ様です!」
にこやかながら、どこか圧のある雰囲気。
あれ…でも、この谷口さんて方、一度お話したことがある…
エレベーターで居合わせた時、短時間に、だけど。
「こ、こんばんは…」
少し逃げ腰に挨拶をする。
そんな私の背中をあいなさんでは無い方の受付嬢さんが押した。
「…楽しんでくださいね?」
「あ、あの…」
では、と私を置いて去って行く受付嬢さん達は、そのまま宮本さんの元へと行ってしまう。
ど、どうしよう…でも…
『告白は自由ですよね』
…確かに、それはそうだよね。
私に止める権利なんてない…。
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息巻いて、迎えた当日、2月14日。
宮本さんと話が出来るかは定かでは無いけれど、一応、サクラさんに教わったレシピで作ったガトーショコラを鞄に忍ばせ、家を出た。
仕事が思ったよりも長引いて、ビルに戻ったのは22時を少しまわった位の頃。
ロッカールームに一度戻って、ピンクベージュの5分袖の膝丈ワンピースに袖を通す。
「やっぱり袖のシースルーの花の刺繍と肩のリボンが可愛いね!
髪、緩くアップしてあげよっか?」
サクラさんが髪をセットしてくれて、それから、会場へと向かった。
宮本さん…来てる、かな…。
少し緊張気味に入って行った会場。
ビールグラスを片手に鈴木さんや作田さんと談笑する宮本さんが目に入り、思わず足が止まる。
ネイビーに薄く茶の格子のスーツ。ジャケットの前を開けてベストにシンプルな濃グレーネクタイをインしてる。
前髪が少し長めに降りた、ふわりとした髪。
ど、どうしよう…久しぶりに見たせい…?
いつもの倍増しでカッコ良く見える……。
緊張が一気に走り、コクリと喉を思わず鳴らしてしまった。
宮本さんが振り返り、私に気が付く。
視線を外して、スマホで何やら打ち出した。
途端、私の鞄の中でスマホが揺れる。
『少ししたら、帰るよ。』
うそ…
わ、私…宮本さんと一緒に帰れるの?
スマホから顔を上げると、一瞬、口角をキュッとあげてから、そのまま、話しかけられた人へと視線を逸らす宮本さんに、どうしようもなく、気持ちがキュウッと音を立てた。
う、嬉しい……
私の抑えられないにやけ顔で察したらしいサクラさんが、ポンポンと軽く背中を叩いた。
「…良かったね。可愛くしてきた甲斐があった。」
フッと目を細めると「じゃあ、私はご挨拶があるから」と私から離れて行く。
ピンヒールで颯爽と歩くその姿に、一瞬にして視線が集まった。
やっぱり素敵だな…サクラさん。
その背中に見とれていたら
「こんばんは!」
斜め後ろから声をかけられた。
あ…受付嬢のお二人…
二人ともフワリと髪を巻き、膝上のスカートから覗く足はスラリとしている。
少し深めに開いた胸元も、綺麗に谷間が出来ていて、少しだけ色気を放つ。
凄く、派手で露出が高いと言うわけではないけれど、それがかえって可愛い感じがして雰囲気にも違和感が無くて…。
…頑張って可愛くしてきたつもりだった自分が何となくいたたまれない。
これがベースの差と言うやつか。
俯きがちに視線を外し、こんばんはと小さく挨拶をした。
「秋川さん、今日は可愛い格好してますね!」
「そ、そんなことは…。」
お話を早く切り上げたくて、愛想笑いで返すけど。
それが伝わらないのか、そのままニコニコ話を続ける二人。
「オーナーさんに感謝だよね!こんな風に盛大な出会いの場を一年に一回用意してくれてるんだから。」
「本当だよね~」
「出会い…」
「そうよ?秋川さんだってだから気合いを入れて来たんでしょ?その格好。」
クスリと少し鼻で笑うと、改めて二人とも私を見る。
「普段が普段だから、わかりやすいですね!」
ふ、普段が普段…
ははは…と自嘲気味に笑って返すしかない、こうなってくると。
「でも、宮本さんと別れたんだし、新しい出会いに期待するのは当然ですよね!」
え……?
「おかげで、今日、告白しやすくなったよね?藍那?」
“あいな”と呼ばれた方の髪の長い方のコが含み笑い。
「まあ…申し訳ないですけど、あまりお似合いという感じじゃなかったですもんね~。
別れて正解だって思います。秋川さんにはもっとお似合いの方、いらっしゃいますよ。うん。」
お似合い…じゃない。
ズキンと気持ちが痛みを感じた。
分かってる、それは。
告白したのだって、相手にはされないだろうけど、チャンスはチャンスだって後先何も考えない勢いでだったし。
未だにどうして…と言う想いはずっとある。
だけど、それでも。
一週間、密に過ごして、私はもっともっと宮本さんが好きになったから。
彼女として…側に居たいって、思うから…頑張らなきゃって……。
キュッと唇を噛みしめた。
「私…宮本さんと別れてはいません。」
受付嬢のお二人は一緒に笑顔がそのままフリーズする。
「で、でも…最近一緒に帰ったリ、出社してきたりしてませんよね…。前は毎日の様にそうだったのに。」
「それは…宮本さんも私も今少し忙しくて時間が合わないからです。
じ、事情が変わったし…」
まさかあの時は『一週間の期間限定だった』とも言えず、曖昧な言い訳。
それに二人は顔を見合わせてそれから、私の方に、パッと明るい笑顔を向けた。
「でも、告白は自由ですよね?」
「そうそう!それに、すれ違いしてるなんて、やっぱり秋川さんと宮本さんは合わないんですよ。」
「え…?あ、あの…」
「今日はせっかくの場なんだし、他の男性とも話したらどうかな。
えっと…あ、居た!谷口さーん!」
呼ばれて、一人の男性がこちらに身体を向ける。
その隣に居た人も。
「谷口さんと…境さん。お二人とも秋川さんがお気に入りなんですよ?」
「6階の丸戸商事にお勤めの方で、将来有望らしいです!」
「や…あ、あの…」
そんな紹介されても困る…のに…
躊躇している間に、男性お二人があっという間に近づいて来た。
「こんばんは。」
「お疲れ様です!」
にこやかながら、どこか圧のある雰囲気。
あれ…でも、この谷口さんて方、一度お話したことがある…
エレベーターで居合わせた時、短時間に、だけど。
「こ、こんばんは…」
少し逃げ腰に挨拶をする。
そんな私の背中をあいなさんでは無い方の受付嬢さんが押した。
「…楽しんでくださいね?」
「あ、あの…」
では、と私を置いて去って行く受付嬢さん達は、そのまま宮本さんの元へと行ってしまう。
ど、どうしよう…でも…
『告白は自由ですよね』
…確かに、それはそうだよね。
私に止める権利なんてない…。
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