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期間限定の恋人ではなくなって数週間が経った。





『毎年さ…一月の終わり位から二月中旬は殺人的に忙しくなるんだよ。』



宮本さんがそう言って溜息をついたあの日からも数週間。

本当に忙しいらしく、宮本さんはほぼ音沙汰が無くなった。



………と、思いきや。




“今日昼1時に書庫整理室奥ね”



いきなりメッセージが来て



「……死ぬ寸前。寝る。」



膝枕をする日が稀にあったりする。




だからなのかな…
あの1週間の様に密に一緒にいる訳ではないのに、不安は無いかもしれない。











「まぁ、1課は仕方ないよ。真斗も今、ほとんど音沙汰無いかな…。」



仕事帰り、松也さんのお店にお夕飯を食べに行くため、サクラさんと会社を出た。


「私達だって、街のケーキ屋さんの依頼とか、ショッピングモールのイベント関係とかで忙しいでしょ?
一課は大きなイベント扱うから余計だよ。」


途中で寄ったデパートの催し物ブースを確認してまわる。


「…今回、東栄デパートのバレンタイン販売を手がけたのって、デザイン会社の“スリジェ”だったね。」

「スリジェ…ですか?」

「そ。知らない?
立ち上げた人って、元は真斗の大学の先輩で…とにかく、切れ者で、自分は経理とマネジメントにまわって、デザイナーさんを守る方に徹していて…働き易い環境をばっちり整えて居る人らしいよ。
今度、来ると思う、結婚式にも。招待状出したから。」


サクラさんは話ながら、周囲を見渡して「あっ!」と少し声をあげ、私の肩をポンポンと叩いた。


「麻衣、あそこ!」

「あ……」


『ゆるネコびより』のチョコだ……!



駆け寄って行って、ショーケースを覗き込む。


箱には可愛くてポップなゆるネコびよりのキャラクターが描かれている。


中身の展示も横にあって、キャラクターの絵が描いてあるアルミに包まれたチョコと、イチゴとミルクのハート型のチョコが入っていた。


「か、可愛い……」

「やっぱり麻衣はここに食いつくか。」


含み笑いしながら、サクラさんも一緒にショーケースを覗き込む。



「…でも、これは完全に自分用ですよね。宮本さんにってわけには…」



そもそも、バレンタイン当日に会えるかどうか分からないし。

それに会えたとしても……ね。



「バレンタインの日に二人きりになれはしない気が…」

「あー…そうだね…。
私も多分、当日は真斗と会うって無いだろうな~。」



苦笑いのサクラさんに私も同じく苦笑いを返した。




…うちの会社が入っているビルのオーナーが毎年2月14日の夜に行っているイベント。



最上階のホールで、ビル内に入っている会社の社員全員を招いての慰労会。



忘年会や新年会でもなければ、年度末の打ち上げと言うわけでもない。

オーナーさん曰く、『寂しい男子の救済だ!』との事だけど…


「実際はね…。
結局元々モテる人が忙しくなるだけだったりするのにね。
まあ…自分は無条件に貰えるからそれでいいのかな。」


松也さんのお店に入り、二人でビールでカンパイしてから、サクラさんはまた少し困った様に笑った。


「真斗はさ…行きたくねえ!って毎年言うんだけど、結局課長が『オーナーの機嫌を損ねるわけにはいかない!』って泣いて説得して渋々出てる。
だけど、ひっきりなしに声をかけられるみたいでさ。次の日げんなりして、凄い機嫌悪いの。」

「そ、そう…なんですか…。」


宮本さんはどうなんだろう…。

私、去年まで何だかんだで免れていたから出たことないしな…(つまり今年は免れられなかった。)




『あー!宮本さんに告白しちゃおうかな!』



そういや、あの受付嬢の人達とか……来るのかな。



宮本さんとはれて普通の恋人になれて以来、手を繋いで受付の前を通るって事はなくなって。

最近は、何故かエントランスを通る時、満面の笑みで『お疲れ様です!』と、お二人に言われる。


何だろう…もう宮本さんの事は好きではなくなったのかな…。


それだったら良いけど。


だって。
どう考えてもあのお二人の方が綺麗だし。


もし本気で宮本さんに告白してきたら……。



思考がどんどんとマイナスに動いて、そこでブンブンと横に顔を振った。


「…どうしたの?」


サクラさんが、ポテトを摘まむ手を止め、私に小首を傾げる。


「い、いえ…」


慌てて、ビールをゴクゴクと飲み干し誤魔化したけど。
一度浮かんでしまった、恐ろしい考えはムクムクと気持ちを支配していく。



……告白してから一の週間は、サクラさんの事もあったし、一週間しか付き合えないと言う不安もあった。だから、自分なりに頑張っていたと思う。


じゃあ、一週間が過ぎた後は…?



“あなただから、なんですけど”


……宮本さんの優しさにすっかり甘えて何も考えなかった(単純過ぎる)。



そうだよ…宮本さんだよ?

あの…彼女が途切れなかった宮本さん。


そんな、彼女の一人や二人居たって、告白されるに決まってるじゃない。



と、言う事は、素敵な女性が現れたら…



『ああ、うん。付き合おっか』

『でも、彼女が…』

『別れりゃいいから。』(妖艶な微笑み)



「……。」


「…麻衣?本当にどうしたの?」



サクラさんが横から覗き込んだけど、今度はそれに愛想良く返事が出来ない。



「さ、サクラさん…」

「ん?」

「私、帰らなきゃ!」



そうだよ…甘やかされてのほほんとしてる場合じゃない。

ちゃんと魅力的で宮本さんが彼女にしておきたいと思う女性にならないと!



「ちょ、ちょっと…麻衣?!」



サクラさんが止めるのも聞かずに立ち上がり、お会計。


「お代は健太にツケときゃいい?
健太に麻衣ちゃんの分は『俺が出すから』って言われてるんだけど。」



あ、相変わらず優しい……って!感動してる場合じゃないから!

宮本さん、遠隔操作で私を甘やかさないでください!



「いえ!宮本さんが汗水垂らして働いたお金で飲み食いなんて出来ません!」



もちろん、サクラさんの「私が払うって」と言う申し出もお断りして、きっちり割り勘にして貰い、岐路につく。



やっぱり、天下分け目の大きな戦いは2月14日だよね。
その日に向けて、出来る事はやらなきゃ。



えっと…えっと…宮本さんが私について好きな所は…



『大福』



ほっぺた!よく触ってくれる!


よし、 お肌のお手入れだ。


後は…



服装やメイクはネットや雑誌を研究し、髪も有名美容室で切ってもらう。

身体を引き締める為に、毎日、ストレッチと筋トレも始めた。


頑張ろう…


絶対、これからもずっと宮本さんの彼女で居たいから。




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