そんなとき、木の影から1人の男が姿を現す。



「───…」



走馬灯のように記憶が流れた。

初めて出会ったとき、女の人みたいだなぁって思ったんだよ。



「っ……、っ、」



夢のような日々だった。

人斬りと恐れられている、男ばかりのその場所で。


少女は痛みと愛情を覚えた。


そして、寂しさがわかるようになった。




「───ただいま。」




その声はやっぱり一番に届いてくれるから。

間違えもしない、間違えるはずがない。
ずっとずっとその声だけはこの先も。

低くて乱暴で、それでいて優しいその声。


大好きな人の、声。



「…ったく、」



夕暮れの黄昏色に、黒いその髪は余計に黒く見えて、涙が邪魔をして。


よく、見えないよ……。


おかえりって言いたいんだよ私。

言いたいの、でも言えないの。



「なに泣いてんだよ、お嬢さん。」



黒いコート姿ではなく。

彼は、その人は。


戦の中走り続ける指揮官でもなく、浅葱色の隊服を身に纏う副長でもなく。