「とにかくもう今日はお引き取りください。また姉さんが目を覚ましてしまいます」

「…そうだね。わかったよ」



僕は何か暗い感情を抱えているような朱に何も言えず、朱に言われるがまま紅の部屋を後にした。




*****



自室に戻った僕はとりあえずコップにアイスコーヒーを入れた。今日みたいな暑い日には冷えた飲み物、特にコーヒーが飲みたくなる。


「はぁ」


少量だけコーヒーを口にして小さな息を漏らす。


まずは紅がいつもの風邪でよかった。
あれだけ噂になるほどの医者が紅の部屋に押し寄せていたなんて聞くと紅の身に何かあったのではと心配にもなる。


「…」


夏風邪の薬を飲んだ後だった様子の紅を思い浮かべる。
薬がよく効いているようでただ静かに瞼を閉じていたその姿はあまりにも綺麗でそして死んでいるようだった。

だから僕はそんな紅の姿を見た時、心臓が一瞬凍りついた。


紅は僕のことをただの幼なじみとしか思っていないのだろう。
だけど僕は違う。

朱だけの紅になることなんて絶対に許さない。
僕だって紅のことが大切だから。


ずっとずっと異性として見ていた。
明確にこの想いに気づけたのは初等部のあの日、あの時だ。

今でもあの世界が一瞬で違う色に染め上がった瞬間を僕は鮮明に思い出せる。