そこはあの時、私がとどめを刺された場所だ。


私の最期は心臓を貫かれてだった。
今その場所に触れている人物によって。


「…」


表面上では平静を装っているが、それでも心臓はバクバクとうるさい。

他の誰にそこを触れられても何とも思わないのだろうが蒼だけは違う。

蒼にそこを触れられると自分でも驚くほどあの生き絶える瞬間の記憶が鮮明に蘇る。
体中を襲う命を奪うほどの激しい痛みと本当に自分は死んでしまうのだと実感してしまった時の絶望。

忘れてさえいたあの一瞬。


落ち着いて。今はまだ私は蒼に殺されない。
蒼だって私を殺す気なんて今はない。

だから今蒼に怯えるのは間違っているはずだ。


「…本当、どうしたの、蒼」


何とか呼吸を整えて蒼の様子を改めて伺う。
もちろんまともな答えが帰ってくることなんて期待していない。
蒼とはそう言うやつだ。


「静かに眠っている紅を見ていると気が狂いそうになる。まるで死んでいるみたいで」

「…縁起でもないこと言わないでよ」

「そうだね」


ほら、やっぱり。
こっちはそれなりにいつもとは様子が違った蒼のことを案じているのに蒼はいつものように胡散臭い笑顔を私に浮かべるだけで。

だがしかしよく見るとその目は笑っておらず冗談なのか冗談ではないのか正直よくわからなかった。