響は思わず小さな声が漏れてしまう。けれど、周りの部員達もザワザワとしていたためその言葉はすぐに紛れて消えてしまう。
「一身上の都合だ。月城の変わりは副部長にやってもらう」
「みんな、迷惑かけて悪いな。後日引き継ぎに来る。これからも稽古頑張ってくれ」
千絃は苦笑を浮かべながらそれだけを言うと、千絃はさっさと道場から出ていってしまう。部員達は動揺を隠せずにオロオロとしている。こういう時に主将がしっかりしなければいけない。けれど、千絃はもういないのだ。それに、響だって動揺していた。
千絃から何も聞かされていないのだから。
剣道を止める?
あんなに大切だったのに。好きだったのに。全国まで行こうと必死になっていたのに。
どうして止めてしまうの?
目が見えなくなって剣道が出来なくなってしまう私のために、強くなるって約束してくれたはず………。
どうして、何も言わないでいなくなるの?
気づくと、響は咄嗟に駆け出した。
「漣……!おまえは行かなくてもいい」
「先生……すみません。行かせてください。私、千絃と話をしないと………っっ!」
響は先生に小さく頭を下げると、裸足のまま靴を履いて道場から飛び出した。
少しの裏庭の方に千絃が歩いていくのがわかり、響はすぐに彼の後を走った。