15話「過去の後悔」
千絃は何回か小さなキスを繰り返した後、また優しく響を抱きしめた。
あんなにぶっきらぼうで少し強引なキスをしてきた人だとは思えないほどだった。千絃は「傷は大丈夫か?」と、耳元で囁いてくれる。響は小さく頷くと、千絃は「そうか」と、安心したように微笑んでくれた。
「怪我をしたんだ。今日は送っていく」
「でも………千絃も怪我をしたでしょ?大丈夫なの?」
「………痛くて家事もお風呂も入れない」
「え?」
「だから、俺の家に来てくれるか?」
突然の誘いに響は驚いてしまい、すぐに反応出来なかった。恋愛は久々であるし、幼馴染みだった千絃と恋人になったと思うと、どうしていいのかわからなくなってしまったのだ。
「ち、千絃は仕事あるでしょっ?」
「俺も怪我したからそのまま帰っていいって言われてるんだ。有休もほとんど使わないで働いてたから、関さんに休んでこいって命令された。………おまえ来たくないの?」
「だっ……だって恋人になれると思ってなかったからいろいろと心の準備が………」
オロオロしていると、千絃はクククッと笑い始めた。
突然笑い出した千絃を見て、響はまた声を上げた。
「な、なんで笑うの!?必死に考えているのに……」
「いや。可愛いなって思って」
「………なっ………」
甘い言葉など無縁だと思っていた千絃から「可愛い」と言われてしまっては、響は驚き顔を真っ赤にさせてしまった。