しばらく真剣な打ち合いが続き、ほどよい汗をかいてきた頃。斉賀達2人の息をあがってきていたので、そろそろ終わりにしようとする雰囲気が漂ってきた。
「響っ!!危ないっ!」
「………ぇ………」
千絃の大声が聞こえた瞬間に、左腕に焼けるような痛みを感じた。
千絃が呆然と左腕を見ようとすると、次にガッという音と「キャッ!」という、斉賀の小さな叫び声が聞こえた。
「響っ!大丈夫か?」
「ぇ………私………どうして……」
「血が出てるな……切れたんだ………おい!タオルと救急セット持ってきてくれ」
「は、はい!……月城さん、腕は大丈夫ですか?」
「俺はいいから早く持ってこいっ!」
「わ、わかりましたっ」
斉賀は慌ててタオル等を取りに駆けていく。
響は状況が理解出来ずに居たが、斉賀の言葉を聞く限りだと千絃も怪我をしているようだった。
「千絃、怪我したの?どこ?大丈夫なの?」
「おまえな……自分の怪我の心配しろ」
「それは千絃も同じでしょ?」
「俺は大丈夫だ。……血、止まらないな………悪い、俺のタオル使うぞ」
そう言って、千絃は響の腕に持っていた小さなタオルを当てた。そこで、初めて響は自分の腕の怪我を見た。床や服にも血が落ちており、千絃の小さなハンカチはあっという間に響の血で滲んでしまっていた。
「ご、ごめんなさい。漣さん……俺、手加減出来なくて。模擬刀に少しささくれみたいなのがあったみたいで、それで………」
「私が悪いの………しっかり見てなかったから」
怪我をさせてしまった男性スタッフは響の怪我を見て顔面蒼白になってしまっている。
響は笑顔を見せて安心させようとしたが、彼は謝るばかりだった。
響は怪我をした事よりもショックを受けている事があった。
それは、彼の事が全く見えていなかった、という事だ。