13話「怪我と優しさと」



 
 この日は、初めて殺陣のモーションを撮影する予定だった。
 何人か敵役がおり、一斉に響に襲いかかるという設定で響には経験がないものだ。


 
 「実際にどんな攻撃が来るかわならない状態でやってみた方が本当に奇襲されたような反応が出ると思うんですけど……ダメですか?」



 その打ち合わせをしている時は響がそう言うと、スタッフ達はポカンとした表情でこちらを見ていた。けれど、すぐに「危ないですよっ!」と声が上がったのだ。それもそのはずで、殺陣では事前に剣や人の行動を決めて、襲い方や交わし方、斬り方を頭と体に叩き込む。そして、演技として見せるものだった。実際に何も知らないでやるのは難しい事だろう。
 けれど、響は演技よりも臨場感を求めた。ゲームでも本物の緊迫した雰囲気が伝わった方がいいのでは?と思ったのだ。


 「1度だけでいいからやってみませんか?打撃は本当に当てないようにしていけば………」
 「響………大丈夫なのか?」

 
 スタッフと話をしていると千絃が険しい顔でこちらに近づいてきた。千絃も反対なのだろう。
 けれど、響は彼に笑顔を向けて「うん」と返事をした。