気づかないようにしていた言葉を声にされると、ハッとしてしまうものだった。
 和歌の話した事を耳にして「あぁ、やっぱりそうか」と、納得してしまった。
 私は、千絃に好意を寄せ始めているのだ、と。いや、もしかしたら昔からなのかもしれない。離れてしまったのが寂しくて、目の前から去ってしまった時は堪らなく悲しかったのだ。彼を忘れてしまおうと、「約束を破った最低な幼馴染み」という怒りの気持ちだけを持つようにしたのだ。そうすれば、もう千絃を忘れられると思ったから。
 けれど、千絃の再開して、少しだけ期待してしまったのだろう。
 約束を果たしてくれるんじゃないか。
 会いに来てくれたんじゃないか。

 けれど、実際は違った。
 振り回すだけ振り回して、いつも去ってしまう。何も言ってくれない。
 だから、やはり彼は自分が嫌いなんじゃないか。
 だからこそ、感情が不安定になり涙を流す事が多くなっていたのだろう。


 「そう、かもしれません………」
 「そうか。気づいてよかったね。君を泣かせてしまうほど不器用な人なのだろうから、自分の気持ちや思いは伝えなければいけないだろう。その方がきっと自分にとっても彼にとってもいい事だと思うよ」
 「はい………」
 「あ、でも泣かされすぎは不安だから、何度も泣くような事があるなら僕に言ってね。大切な中庭のお客様なのだから」



 和歌に言われて気がついた。
 いや、やっと気持ちに素直になったのかもしれない。私は千絃が気になっている。
 認めてしまえば、それはもう変えられる事は出来ない。だからこそ、それに気づかないようにしていたのだろう。


 「和歌さん。ありがとうございます」
 「うん。頑張ってくださいね」


 話をしている内に、いつの間にかマンションに到着していた。
 そう言って和歌はヒラヒラと手を振って帰っていく。すれ違う時に、金木犀の香りを感じ思わず彼の姿を追ってしまう。和歌はいつも甘い香りの金木犀の香りを身に纏っていた。とてもいい香りだなと感じていたので、今度どんな香水を使っているのか聞いてみよう、と思った。

 もちろん、今日のお礼も忘れずに。