12話「金木犀の香り」
最近の自分は泣いてばかりだな。
響は、そんな風に思いながら、トホトボと一人帰り道を歩いていた。
ある程度泣いた後はすっきりするのか、涙が出ることはなくなった。すぐに泣き止むのは大人になった証拠なのかなーと思ってしまう。
けれど、どんなに試合で悔しい結果が出ても、怪我をして取り残されたような気分を味わった時でも泣くことなんてなかった。
それなのに、どうして一人の男性の事になると涙が溢れてしまうのだろうか。
自分の中で幼馴染みである千絃の存在は大きいものだというのを千絃は実感した。そして、彼との約束に縛られているという事も。
「こんばんは、漣さん」
「和歌さん!こんばんは。お買い物ですか?」
「そうそう。今日は冷やしうどんにしようかと思ってね」
帰り道、管理人である和歌とバッタリ会ったのだ。和歌はカタカタと下駄を慣らしながら歩いている。響が近づくと、ニコニコしながら買ってきた食材が入ったビニール袋を見せながら夕飯の話をしてくれた。
ゆったりとした時間が流れ、響はつかの間の平穏を楽しんだ。
「おいしいそうですねー!サラダうどん。今度、やってみます」
「うん。暑くなってきたら、さらに食べたくなるものだからおすすめだよ」
優しく笑う和歌は、とても大人の雰囲気を持っている。安心感を感じられるのは、自分よりも年上だからなのか。それとも彼の優しさがそう感じさせるのか。響はどちらもそうなのだろうなと思った。