そんな余裕な彼に対して少しでも反抗しようとする。
「だったら離して………」
「それは無理だな」
そう言ってククッと笑った後に、千絃は顔を近づけて唇をしてきた。
あぁ……そうだ、嫌だと拒絶して離れなければいけない。それなのに、どうして言えないのだろう。からかわれて、遊ばれているだけだとわかっているのに。
好きじゃないくせに。
そう思うと、体が動いていた。思いきり千絃の体を押し、何とか彼から離れる。
いつもは拒まない響だったので、少し驚いたようだったけれど、彼はまた強引に響を抱きよせて、首を腕で固定して、キスをした。
抵抗する響の口が開くと、すぐに舌が侵入してくる。そこまでくると、響の体は抵抗出来なくなり、彼の与えてくる甘い快楽に、黙って浸るしかなかった。
好きじゃないのにキスをしてくるのは何故か。約束を守らず、目の前からいなくなった千絃だ。
きっと、自分の事を嫌いになったのだろうと、ずっと思っていた。
けれど、こうやって遊びでキスをされたことにより、それが響の勝手な想像では当たっていたのだとわかった。
そう思うと悔しいが涙が出てしまう。
そんなにも嫌われていたのだと。そのために仕事に誘ったのか。
あの響を褒めた言葉で、少しだけうかれていた自分はバカだった。
「………おまえ………泣いて………」
「離して……いや………千絃なんて嫌いよっ………!!」
響は涙を流したまま千絃の事を見つめた。きっと情けない顔になっているだろう。けれど、そんな事はどうでもよかった。
千絃の体を押しよけ、彼から離れると持っていたワンピースを急いで着て、荷物を持ってその場から走って逃げた。
自分で発した言葉にも、涙でぼやけた視界で見えた千絃の表情に、響はまた悲しみが込み上げてくる。
誰にもバレないようにトイレに駆け込み、しばらくの間、そこから出られずに泣くのを止めようと堪えてみるが、ボロボロの流れる涙は止まることがなかった。