あまりにも弱々しい言葉、そして、傷ついている表情に響は更に不安になった。
何故彼がそんなに落ち込んでいるのか。自分で選び、約束を破ったのは千絃なのに……と、動揺してしまった。
「………ひびって呼ばないで………」
「わかった。もう呼ばない………。短剣使いの資料持ってくる」
そう言って部屋から出ていく千絃の背中はどことなく切なげなのが伝わってきた。
その後に、戻ってきた千絃は普段通りで、先ほどは勘違いでもしたのだろうかと思うぐらいだった。
短剣は使ったことがなかったので、前作をみたり何度も動くを確認し、体を動かしていくうちに千絃の様子を見ては「大丈夫なのかな」と思えてきた。それぐらいに彼はいつも通りだったのだ。
モーションキャプター用に動きやすい服に着替えている響は、この日の仕事が終わった後に私服に着替えて。
その時は倉庫をかりており、薄暗い中で急いで着替えながらも今日の反省をするのが日課だった。
「はぁー……今日の短剣は難しかったな。頑張ろう。あのキャラクターにも慣れないと」
響はそう一人で呟きながら、帰宅したらゲームのプレイ動画をみて研究しようと決めていた。
スポーツウェアを脱いでワンピースを着ようとした時だった。倉庫の部屋の扉がガチャッと空いたのだ。いつも誰も入ってくるはずもなかったので、今日は鍵を閉めるのを忘れてしまっていたようで、すんなりとドアが開いてしまう。
人は驚くと、どうしても体が石のように固まってしまうものだ。響は体を咄嗟に持っていた服で隠したまま、息を飲んでドアの方を向いた。すると、そこには長身の彼が立っていた。千絃だ。