小さなマンションに帰り、シャワーを浴びた後は掃除や洗濯をして過ごす。穏やかに見える日々だけれど、焦りもあった。
 会社を退職した今、響は無職だ。
 ほとんどお金を使わない生活をしていたため、かなり貯金はある。けれど、いつまでも働かないで生活出来るわけでもないのだ。
 いざとなったら、バイトでもすればいいのかもしれない。けれど、本当にそれでいいのか?
 響はずっと剣の道を生きてきた。
 それを止めて、次は何を目標にすればいいのだろうか?そう思ってしまうのだ。


 「仕事……探そう………」


 何も見つからないのなら探してみればいい。そんな藁にもすがる思いで、響は本屋に向かった。求人情報誌を見たり、街の中でのポスターを見たりしても何もピンッとこないのだ。

 そんなに簡単に見つかるはずがないとわかっていつつも、落胆してしまう。

 人混み避けるために裏道を通る事にしたが、この道を通りたい理由があった。ゆっくりと歩くと、とある小さな公園がある。ベンチやブランコ、滑り台しかない、人もほとんどこない広場だ。そこに、響の目的のものがある。


 「綺麗ね………」


 そこには、ピンク色の花が散り新緑色に染まったら桜の木だった。響はその大きな木を見上げながら、声を洩らした。
 黄緑色の生まれたばかりの新しい葉は、太陽に当たると透けているように見える。そんな花ではなく葉をつけはじめた桜の木を見るのが、響は好きだった。
 正確には、響ではない。響の中にいる、昔の彼。
 きっと、彼はもうその事など覚えてないだろう。


 そう思いながら苦笑した時だった。



 「ひび」
 「……………ぇ………」
 「おまえ、何やってんの?もしかして、泣いてた?」
 「…………千絃…………」