ひとり自宅に帰った響だったけれど、モヤモヤとした気持ちのままだった。
 先日キスをされたのだから、2人きりにならないでよかった。そう思うはずなのに、どうして送ってくれなかったのだろうか。とも、考えた。返事を保留にしたから、幻滅したのだろうか。

 頭の中に浮かんでくるのは、キスをされた時と真剣な表情でPCを睨む千絃の姿だった。

 会議室で会ったときはキスの事など忘れてしまうほどに、昔のままの彼の表情に驚かされていた。それほどに、千絃が真剣なのだと伝わってきたのだ。


 普段は無表情なのに、俺様な性格と企みのある笑み、そして好きな事には真剣な顔を見せる千絃。
 どれも彼らしさがあると、響は知っていた。
 だからこそ、迷わなくてもいいはずだともわかっていた。
 けれど、あのキスが、あの約束がそれの邪魔をする。


 「はぁー………って、もうこんな時間か」


 先ほど見せて貰った動画を何回も再生し、いろいろな事を考えていたら、いつの間にか夕日が差し込んでくる時間になっていた。

 そろそろ夕食の準備をしなければいけない。
 けれど、考えすぎたせいか食欲はあまりなかったので、何かあるもので済ませようと、重たい体を上げた時だった。