「わざわざ来ていただきありがとうございます。なんですが、実はまだ完成していなくて………」
 「そうなんですね。時間はあるので待ちますよ」
 「すみません。完成はしているんですが、月城が納得出来ない部分があったようで、手直しをしているんですよ。今も、まだ作業中でして」


 そう言って、関は廊下の方を見つめた。すると、ガラス張りになっている個室にこもって、PCに向かって仕事をしている千絃の姿があった。窓越しに見られている事も気づかずに集中して作業をしているようだった。




 「普段は自分のデスクで仕事してるんですが、どうしても集中したいときは、あそこの小さな部屋を使ってこもるんですよ。あそこだと集中出来るそうで」
 「そう……なんですね」



 真剣な眼差しでパソコンの画面を見つめる千絃に響は釘付けになってしまった。その横顔や瞳は、あの頃剣道の稽古をしている時と全く変わっていなかった。彼はあそこで戦っているのだ、と感じられた。


 「月城とは知り合いなのですよね?」
 「え、えぇ……幼い頃の友人です」
 「そうですか……。ここからの話は月城には言わないで欲しいんですが、スタッフ達で動画を作り上げた後、彼が手直しをしたいと申し出たんですよ。ですが、私はゲーム本体のものではない宣伝のものなので、細かい所は気にしなくていいと言ったのですが………あいつは「あいつが見て少しでもがっかりするようなものは見せたくないんですよ。それに今後の仕事にも関わってくるのでやらせてください」って言ったんですよ」
 「………ぇ………」
 「あいつは、漣さんの剣舞や剣がこの世界で活躍すると信じているようでしてね。いや、私もそうなんですが………漣さんの実力を信じているみたいなんですよ。なので、ぜひ動画を見て、しっかりと決めて欲しいのです。もちろん、動画は私たちの自信作です。ですが、月城の気持ちも知って欲しかったので。話させていただきました。……どうも、あいつは不器用なんでね」



 そう言って苦笑しながら千絃を見つめ熱く語った関。彼は部下である千絃を尊敬し、そして気持ちをよくわかっているようだった。自分の事をよく知り、実力を認めてくれる上司がいるのだ。千絃は良い会社にいるのだな、と思った。

 響はその関の言葉を聞き、胸の奥が熱くなるのを感じた。

 そして、彼と同じように千絃を見つめた。



 「………そうですね。私も、そう思います」



 そう微笑みながら、鋭い眼差しで画面を見つめる千絃を見守ったのだった。