ふーっと小さく息を吐く。
そして、竹刀を頭より上にあげて、勢いよく下へと振り下ろす。そして、竹刀を絞るようにして、動きを止める。
シュッ。という音が耳に届く。
それを何度も繰り返す。「素振り」を淡々とこなす。けれど、形や体の力の入り方を確認しながら行うと、とても精神力の必要な動作だった。
それを響は毎日100回以上行う。その後には左手だけで竹刀を持ち素振りするのだ。
終わる頃には冬でも汗をかいている。
剣の事だけを考える時間は好きだった。
心が落ち着くし、やはり好きな事なのだなと感じられる。
この時間は響にとってなくてはならないものだった。
響が全ての自主稽古を終え、始める前と同じく神棚に向けて頭を下げていた時だった。剣道場の扉が開く音がした。
「今日もやっているね。響くん」
「双虹(そうこう)様、今日もお邪魔しています」
「いいんだ。君が来ないとこちらもやる気が出ないものさ」
双虹は白髪混じりの髪に、背筋がピシッとした65歳の男性だ。真っ黒な道着袴姿だ。